契約書は婚姻届
涎の跡でもついてないか心配になってきた。

「僕も一応読んだけどね。
こんなつまらないものは朋香は読まなくていいよ」

ぽいっ、そこらに本を投げ捨てたかと思ったら、がしっと思いっきり本を踏みつけた尚一郎の、眼鏡の奥の目は全く笑ってない。

「夕飯にしよう。
もうおなかペコペコだよ」

おなかを押さえて笑った尚一郎はいつも通りに戻っていて、ほっとした。


 
夕飯が終わって、いつものように膝の上に載せられて過ごしながら、朋香はぐるぐる悩んでいた。

自分は、少しくらい我が儘になっていいんだと思う。

いや、バーキンが欲しいとか、そういうことではなく。
 
そもそもバーキンが欲しいなんて思わないし、もっともすでに、衣装部屋の中に二つほど転がっている。

さらにいえば、尚一郎がそういうものをプレゼントしてくるのがムカつく。
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