契約書は婚姻届
黙ってしまった朋香の手を取ると、ちゅっとそのはまっている薬指の指環に口付けを尚一郎は落とした。

「わかってるよ、朋香がなにに怒ってるのか。
仕方ないと云えば仕方ないよね、だって僕は目立つから」

ぱちんと悪戯っぽくウィンクされるとなにも云えなくて、黙って紅茶のカップを口に運ぶ。

朋香が尚一郎の家のティータイムにがっかりしたのを知っているのか、今日は本格的なアフタヌーンティにしてくれた。

「あのときも朋香は怒ってて、それが嬉しかったんだよね」

「あのときって?」

いつの話だろう?

尚一郎の口振りからいって最近の話ではない気がする。
けれど、尚一郎に会ったのは、あの、尚一郎の会社ですれ違ったのがはじめてだと思う。
 
「んー、いまはまだ、内緒だよ。
……映画はどうだったかい?
ずいぶん楽しんでるように見えたけど」

急に話を変えて尚一郎が誤魔化してきた。
聞かれるとなにか困ることでもあるのだろうか。
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