契約書は婚姻届
酒が入っているせいか、尚一郎は酷く上機嫌だ。

「いいですけど、あんなお店ばかりですよ?
個室じゃないですし、今日みたいに、予約できないお店だって」

「いいんだよ。
普通の日本って知りたかったし、なにより、朋香の好きなお店に連れて行ってくれるのが嬉しい」

指を絡めて握られた手が、楽しそうに上下に揺れる。

こんなに喜んでもらえるなんて思ってなかった。
嫌でも付き合ってはくれるだろうとは予想していたが。

歓迎会に誘われなかったといまだに根に持ってるみたいだから、今度はカラオケとかにも誘ってみようかなどと考えていた。


せっかく、いい気分で屋敷に帰ったのに、待っていたのは嫌な知らせ。

「本邸からの使いがございました。
明日、昼食を一緒にせよ、とのことです」

帰ったとたんに野々村に告げられてげんなりした。
また、あの祖父母に会わなきゃいけないとか。
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