契約書は婚姻届
自分の膝で無防備に眠っている尚一郎が一瞬、愛おしいと感じた。

「……好きですよ、尚一郎さん」

「ん……」

そっと、その薄い唇に口付けをして離れると、尚一郎が身動ぎをして慌ててしまう。

どきどきと早い心臓の鼓動。
顔からは火が出そうなほど、熱い。

……起きてない、よね。

おそるおそる窺うと、尚一郎はまだ気持ちよさそうに寝息を立てていて、ほっとした。

柔らかい髪を撫でながら、ふと気になった。

尚一郎は眠りに落ちる前、なんと云っていたんだろう。
そういえば、前も似たようなことを云っていた気がする。

ドイツ語を勉強し始めたとはいえ、まだまだ初心者の朋香には意味がわからない。
聞けばいいんだろうが、なんとなく聞いてはいけないような気がした。
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