契約書は婚姻届
さらさらと長い黒髪が落ちてくる。
真っ赤なマニキュアにさらには自信を示すかのような真っ赤な口紅。

自分とは正反対なその女性は誰だか知らないが、無性に不快だった。

「あなたこそ誰ですか?
私は尚一郎さんの、つ、つ、つ、」

「つ?」

朋香の顎に手をかけて上を向かせると、挑発するようにニヤリと笑った女性に、朋香のなにかがぷつんと音を立てて切れた。

「私は尚一郎さんの妻ですが!」

「やっぱり尚一郎の浮気相手なんじゃない」

「は?」

急に興味を失ったかのように女性は朋香から離れると、野々村に持ってこさせたコーヒーを口に運んだ。
 
「だって、私は尚一郎の婚約者だもの」

「はぁっ!?」
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