契約書は婚姻届
「朋香、違うから」

「へー、なにがどう、違うんですか?」

冷ややかな朋香の声に、尚一郎はびくびくしている。
まとわりつく女性を困惑して引き剥がしながら。

「彼女は重広侑岐(しげひろ ゆき)っていって、CEOが決めた婚約者で。
……元。
元、婚約者だよ!」

「エー、私は婚約解消した覚えはないんだけどー」

「侑岐、離れてって!」

なれなれしい女性――侑岐に、迷惑そうな顔をしながらもきっぱりと拒絶しない尚一郎に、怒りがふつふつと沸き上がってくる。

「その方と結婚した方がよかったんじゃないですか」

「だから朋香、誤解だって」
 
誤解もなにも、朋香の目からは尚一郎が、侑岐にべたべたされてデレているようにしか見えない。

「尚一郎、式はどーするー?
達之助おじいさまが早く結婚しろってー」
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