契約書は婚姻届
「侑岐さんとお幸せに!」

「待って、朋香!」

とうとう怒りが爆発し、後先考えずに屋敷を飛び出した。

飛び出したもののどこに行っていいのかわからない。
外に向かう道をとぼとぼ歩いていると、後ろに気配を感じた。

「尚一郎さん!?」

追ってきてくれたのかと期待して振り返ったのに、そこには誰もいない。

「くーん」

小さな鳴き声がして、さらには手に湿った鼻を押しつけられて視線を落とすと、尻尾を力なく振っているロッテがいた。
 
「ロッテは私を、心配してくれるんだ」

「くーん」

慰めるようにスリスリとあたまを擦り付けられると、ぽろりと涙が落ちた。

「尚一郎さんなんてだいっきらい」
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