契約書は婚姻届
毎日、ロッテと三十分の散歩をこなしているので、難しいことではなかった。

大通りではタクシーを拾った。
無一文でカードすら持ち合わせてないが、行き先は実家。
着いて事情を話せば、明夫が払ってくれるはず。

これからの方針がとりあえず決まってほっと息をつくと、気が緩んだのかまた涙が出てきそうになって慌てて目尻を拭う。

朋香が雪也と浮気したときはあんなに怒っていたのに、自分は婚約者にデレデレして。
結局、自分との結婚はやはりただの契約結婚でしかないのだろうか。

最近、尚一郎を本気で好きになり始めていただけに、ショックは大きい。
 
実家の前まで来ると、見慣れたアウディが停まっている。

先回りされることを予想してなかったわけではないが、むっとした。

タクシーを停めると同時にアウディから尚一郎が降りてくる。

どうしようか迷っていると、コンコンと窓ガラスを叩かれた。

「朋香。
僕が悪かったから。
降りてきて」
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