契約書は婚姻届
「やだ!
降ろして、降ろしてって!
絶対に帰らないんだから!」

手足をばたつかせて暴れてみたところで尚一郎は全く堪えてない。
犯罪を心配してか、心配そうに見ていたタクシードライバーと目が合うと、尚一郎はぱちんとウィンクした。

「ちょっと妻と喧嘩中でね」

それだけでタクシードライバーは納得したのか、ばたんとドアを閉めると去って行ってしまった。

「降ろして!
帰らない!
もう離婚するんだから!」

「はいはい、帰ってからゆっくり話をしよう」

「なんの騒ぎだ?
え?
朋香と、……尚一郎君?」

とうとう、家の中から明夫が出てきた。
そりゃ、表でこれだけ騒いでいれば気付くだろう。

「お義父さん、お久しぶりです」
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