契約書は婚姻届
でも今日は、尚一郎を甘やかせると決めたのだ。

「ありがとう」

にっこりと笑った尚一郎の顔が近づいてきたかと思ったら、ちゅっと唇が重なった。

離れると、じっと見つめてくる。

視線を逸らせなくて見つめ返すと、尚一郎の両手が朋香の顔を挟んだ。

ゆっくりと目を閉じると、再び唇が重なった。

ちゅっ、ちゅっ、上唇を軽く喰んだりしながら繰り返される口付けは、次第に余裕のないものに変わっていく。
 
「……!」

唇を割って入ってきたぬめったそれに、尚一郎の首に腕を回して抱きついた。

あたまの片隅で、ここでこんなことをしていれば、使用人の誰かに見られるんじゃないか、そんなことを考えていたが、尚一郎に翻弄されているうちに消し飛んだ。

自分を性急に求める尚一郎はまるで……僕をひとりにしないで。
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