契約書は婚姻届
「あの人は未だに、私に後妻を娶れと云うのです。
その方に子供を産ませれば、尚一郎などに跡を継がせなくてすむ、と。
さらには麻祐子(まゆこ)を悪し様に云う」

みしり、尚恭の握るフォークが微かに音を立て、びくっと身が竦む。
すぐになんでもないかのように尚恭が笑った。
 
「ケーキ、いかがですか?
レモンのケーキもおいしいんですよ」

「……いただきます」

新しいケーキがサーブされ、コーヒーが継ぎ足された。
なんとなく気まずいまま、もそもそとケーキを口に運ぶ。

「……麻祐子は父に殺されました」

重い、尚恭の言葉に、どういう意味なのか判断しかねた。
確かに、あの達之助の性格ならあり得ないこともないとは思うが。

「子宮癌でした。
早期に発見できて、そのときに治療していればなにも問題なかったんです。
けれどなかなかできない子供に、ノイローゼになるほど父に責められていた麻祐子は云い出せなかった。
気付いたときには手遅れでした」
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