契約書は婚姻届
かちゃり、尚恭がカップをソーサに戻す音だけが大きく響く。

尚恭の語る麻祐子の話は未来の自分な気がして、朋香は背中が寒くなる思いがした。

「子供などいなくていい、君が笑って元気でいてくれればそれでいいんだ。
何度云い聞かせても、父の酷い仕打ちに精神を蝕まれた麻祐子には届きませんでした。
父が麻祐子を殺したというのに、あの女が子供を産まなかったらこんな面倒なことに、などと……!」

だん!

両の拳で叩かれたテーブルに、尚恭の気持ちを察した。

……二番目、だけど三番目はない。
その言葉の通り、麻祐子のことも深く愛していたのだろう。

「……失礼しました。
ところで、ケーキはいかがですか?
チョコレートのケーキもなかなか」

「……いただきます」

正直に云えば、おなかはかなり満たされていた。
が、断れそうにない雰囲気に、新しいケーキをサーブしてもらう。
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