契約書は婚姻届
空になっていたカップにも、新しいコーヒーが注がれた。

「父……当主はそういう人間です。
あなたは耐えられますか?」

「それは……」

耐えられる、などと軽々しく云えなかった。
静かに見つめる尚恭の、レンズの奥の瞳は朋香を試している。

「私、は」

声が震える。
ばくばくと早い心臓の鼓動。

なんと答えていいのかわからなかった。

耐えられる、そんな嘘はつけない。
けれど耐えられないとは云いたくない。

ぐるぐると思い悩んでいると、不意にふっと、尚恭が表情を緩めた。

「尚一郎はよいお嬢さんを妻に迎えたようですね」

「え?」

自分は聞かれたことに答えられなかったのに、嬉しそうに笑う尚恭に困惑した。
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