契約書は婚姻届
「私の話を聞いて、簡単に耐えられるとは答えられなかったのでしょう?
けれど耐えられないと逃げ出すのも嫌だった」
 
「……はい」

「朋香さんはよいお嬢さんです。
当主に潰させるには惜しい」
 
目を細めてうっすらと笑う尚恭に、背中を冷たいものが走る。
こんなところまで尚一郎は父親にそっくりだ。

「別れなさい、朋香さん。
尚一郎と」

静かに見つめられているだけなのに、じっとりと手のひらに汗をかいていた。

ゆっくりと目を閉じ、気持ちを落ち着けるように一度深呼吸する。
再び目を開けると、静かに朋香は口を開いた。

「私は絶対に、尚一郎さんと別れません」

ついこのあいだ約束したのだ、ずっと尚一郎と一緒にいると。
あの気持ちに嘘偽りはない。

「どうして?
贅沢がしたいのなら、慰謝料という形で十分に保証しますよ」
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