契約書は婚姻届
翌朝、朋香が起きると既に洋太は家を出ていた。

せめて、最後の弁当くらい持たせたかったのに。

仲直りができないまま、家を出ることになるのかと思うと心が重い。

 
明夫から朋香は、今日はもうなにもしなくていいとは云われたが、勤めて三ヶ月とはいえ急に辞めることになるのだから、引き継ぎもある。
それに、なにかしていないと気が紛れない。

十時を過ぎた頃、困惑気味の事務の女性から内線がかかってきた。
『朋香さんに、その、押部社長からお電話です』

「はい」

今日、迎えに来ると云っていたので、その件だろうと電話を取ったものの。

『Mein Schatz(マイン シャッツ)!』
 
ガチャン、思わず思いっきり受話器を置いていた。

昨日はなにを云われたのかわからなかったが、調べてみるとドイツ語で、英語でいうところの“マイハニー”って奴だと知ってげんなりした。
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