契約書は婚姻届
あまりに音が大きかったのか、何事かと明夫がこちらを見ている。
我に返ってまずいことをしてしまったと思ったが、すぐにまた内線が鳴り出した。

「はい」

『朋香さんに、あの、押部社長からお電話です』

「はい」

一度、今度は大きく深呼吸してからボタンを押す。

『酷いな、朋香。
いきなり切るなんて』

「すみません、なんだかとても不快なことを云われたので」

『不快なこと?
僕はなにか云ったかな?』
 
電話の向こうから楽しそうにくつくつと笑う声がする。
十も年上となると、なにを云っても簡単に手のひらの上で転がされてるみたいで、腹が立つ。

「それで?
ご用件は?」
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