契約書は婚姻届
『つれないな、Mein Schatzは。
これがツンデレって奴かい?』
 
くつくつと笑い続ける尚一郎にため息しか出てこない。

『そうそう。
今晩はお義父上や弟さんはお暇かな?
みんなで食事をしたいと思うんだけど』

「父は大丈夫だと思いますが、弟は知りません。
連絡は取ってみますが」

『わかった。
じゃあ、五時頃、会社の方にお伺いするよ』
 
上機嫌なままの尚一郎とは違い、電話を切ると朋香の口からは大きなため息が落ちた。

「朋香、押部社長はなんだって?」

おそるおそる、明夫が聞いてくる。
気づけば、朋香の眉間には深いしわが刻まれていた。
誤魔化すように笑って答える。

「今晩、家族で一緒に食事をしましょうって。
洋太にも連絡しとくね」

「そうか。
……朋香。
改めて礼を云う。
おまえのおかげでみんな、やっていける。
おまえを犠牲にするなんて、父親として、経営者として失格なのはわかってる。
本当にすまない」

「お父さん……」

明夫の背中が急に小さくなった気がした
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