契約書は婚姻届
「あの、ひとりで着るんですか」

「もちろんです。
ああ、お持ちになった荷物はこちらですべてお預かりします。
携帯も、その指環も」

「……はい」

渋々、持ってきたスーツケースと携帯を渡す。
結婚指環を外すことには躊躇われたが、仕方ない。
外して男に渡すと、急に尚一郎の守りがなくなった気がして、心細くなった。

「私は少し外しますので、その間に着替えておいてください」

「……はい」

男が出て行くと、はぁっと小さくため息が漏れた。

……野々村さんに着付け習っておいて正解。

本邸に来ることが決まってから、無駄に心配だけをしていたわけじゃない。

仕事が忙しいのに尚一郎は、ありとあらゆることを考えて手を打ってくれた。
朋香だって尚一郎にばかり手を煩わせず、自分にできることはすべて。
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