契約書は婚姻届
野々村には無茶ぶりともいえるほどいろいろお願いしたが、いつも通り無表情ですべてこなしてくれた。

……野々村さんって案外、いい人なのかも。

短時間で叩き込まれた着付けを思い出しながら、着物を着ていく。
用意された着物は本邸の使用人たちが着ているのと同じものだった。

……結局、そういうことだよね。

嫁として再教育、といいながらも実際は使用人扱い。
想像できていたことだけに絶望したりしない。

「着替えられましたか」

「はい」

男が戻ってきたときにはすでに、着替え終わっていた。

「では、着いてきてください」

「はい」

廊下を進む、男のあとについて歩く。

「自己紹介が遅れました。
私はこの家のいっさいを取り仕切っている、杉谷(すぎや)と申します。
よろしくお願いいたします」
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