契約書は婚姻届
五時ぴったりに尚一郎はやってきた。

「工場に来るのは初めてですね。
もっと早く来るべきだった」

明夫の案内で工場内を見て回りながら、尚一郎はしきりに感心している。

朋香も一緒に連れ回された。
改めて説明をされると知らないことも多く、この工場を守ってよかったと思う。

尚一郎の一行が通り過ぎるたび、皆はあたまを下げるのもの、ほとんどが憎々しげに見ていた。

けれど尚一郎はそんな様子を気にする素振りは見せない。

「やはり、若園製作所さんの技術はすばらしいものです。
無理を通してよかった」

「無理、とは?」

尚一郎の言葉が引っかかった。
明夫も同じだったようで問うと、笑顔で誤魔化してきた。

「なんでもないです。
ほら、行きましょう」

強引に進む尚一郎を慌てて追いかける。
きっと気のせいだと、このときは片づけた。
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