契約書は婚姻届
意を決して朋香は、着物の帯に手をかけた。


「お待たせしました……」

無駄な抵抗と知りながら、裾を引っ張って尻を隠す。

浴室内は黒のタイルで覆われていた。
そこに温泉旅館のような大きな、桧の風呂。
足下につけられた明かりが室内をほのかに照らす。

中は湯気が充満していて、それでなくてもぴちぴちな着物を肌にぴったりと張り付かせた。

「はようせい」

「失礼します……」

桶を手に、こちらに背を向けて椅子に座る、達之助にお湯をかける。

……これなら、見えないかもしれない。

ほんの少しだけ、ほっとした。

準備してあった手ぬぐいに石鹸を塗りつけ泡を立てる。
おそるおそるたっぷりと泡の立った手ぬぐいで、朋香は達之助の背中を洗い始めた。
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