契約書は婚姻届
「すみません、遅くなって」

ふるふると黙って首を振ると、かけてもらっていた上着の襟を掻きあわせる。

あのままだったらどうなっていたのかわからない。
尚恭に助けられなければきっといまごろ、達之助から耐えられない辱めを受けていた。

一気に、恐怖が身体を支配する。
ガタガタと震えが止まらない。


尚恭の屋敷に着くと、客間に案内された。

すでに湯の準備をしてあるので温まってくるといいと云われ、首を振ってしまう。

「私が怖いですか?」

じっと眼鏡の奥から見つめられ、すぅーっと目を逸らしてしまう。

怖くないわけがない、あんなことがあった直後で。

尚恭は達之助とは違うとわかっていても、やはり怖い。

「私が出て行ったら、この部屋の鍵をかけてください。
ここは中から、鍵のかかる部屋ですから。
もちろん、風呂に入れば浴室の鍵を。
これは、この部屋の鍵です。
こちらはマスターキー。
鍵はこれだけしかありません。
ここに置いておきますから、朋香さんがこの部屋の鍵を中からかければ、外からは開けられない」
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