契約書は婚姻届
「あの……」

「こちらへ」

「……はい」

男の連れられてきたリビングでは、尚恭がタブレットを睨んでいた。
朋香に気付くと顔を上げ、柔らかく目を細めて笑う。

「少しは落ち着きましたか」

「……おかげさまで」

進められて向かい合うソファーに座ると、尚恭が合図を出すかのように、男の向かって僅かに頷いた。
男の方は軽くあたまを下げると、足音も立てずにその場を去っていく。

「申し訳ありません。
駆けつけるのが遅くなってしまって」

「いえ、私の方こそ、ありがとうございました」

「あたまを上げてください!
朋香さんが礼を云う必要など、なにもないんですから」

あたまを下げると、慌てて尚恭から止められた。
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