契約書は婚姻届
姿勢を戻すと、レンズ越しに目のあった尚恭が、困ったように笑った。

「本当に申し訳ありません。
連絡を受けてすぐに駆けつけたのですが、あそこに入るには私でも、いろいろ面倒なのです」

「はあ……。
その、……連絡、って」

少し、引っかかっていた。
どうして尚恭に自分の状況がわかったのだろう、と。

「本邸には数人、スパイを潜り込ませています。
ああ、私だけではないですよ。
尚一郎も潜り込ませているはずです」

「そうなんですか……」

家族間でスパイが必要などと、押部の家はいったい、どうなっているのだろう。

単純に尚一郎が嫌いだからだと思っていた。
けれど問題はもっと、複雑なようだ。

「失礼します」

急に視界に入ってきた男に驚いた。
< 351 / 541 >

この作品をシェア

pagetop