契約書は婚姻届
尚恭がテーブルの上に滑らせたのは、本邸で没収された携帯電話と指環だった。
指環を左手薬指に嵌めると、やっと尚一郎の元に戻ってこれた気がして泣きそうになったが、我慢した。

「尚一郎に連絡してやってください。
きっといまごろ、生きた心地がしてないはずですから」

「でも、時差とか」

「心配しなくても、いま、向こうは昼間です。
それに、尚一郎もスパイを潜り込ませていると云ったでしょう?
この件はすでに、尚一郎の耳に届いているはずです。
連絡を入れて、安心させてやってください」

「わかりました」

尚一郎の声が聞ける、そう思うといてもたってもいられない。
そわそわし始めた朋香に、尚恭がおかしそうにくすりと笑った。

「あの部屋は好きに使ってもらってかまいません。
では、おやすみなさい」

「おやすみなさい」

尚恭にあたまを下げると携帯を手に、ぎりぎり歩く速度で与えられた部屋に向かう。
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