契約書は婚姻届
オシベの社長といえば不遜で傲慢、そんなイメージでこんな顔をするなんて想像できなかったから。

「……じゃあ、今回限りということで。
今後、こういうことは困りますから」

「今回はいいんだね」

「はい」

ぱっと俯いていた顔を上げた尚一郎は、まるで大型犬、それも細身の……ボルゾイがしっぽを振ってるように見えて、思わずくすりと笑ってしまい、朋香は顔が熱くなる思いがした。

 

家に行きたいというので、朋香の家に向かう。

工場から家まで徒歩五分で、いつもは歩きで通っているのだが、今日は尚一郎の車に乗せられた。

運転手付きの、メルセデスベンツ。
明夫にプレゼントされたものよりもさらに上の。

どことなく、落ち着かない。

「ここが朋香の生まれ育った家ですか」
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