契約書は婚姻届
「……なんとなくわかります」

達之助はどれだけの人間を不幸にすれば気が済むのだろう。
腹が立つよりも、そんなことを簡単にしてしまう、達之助が恐ろしい。

「結局、達之助おじいさまが彼女に手を出し始めた時期と妊娠した時期に少しだけズレがあって、子供は野々村の子供なのか達之助おじいさまの子供かはわからない。
それでも、野々村は自分の子供だって信じてたみたい」

「……はい」

「これが、尚一郎が引き取られた年にあったこと。
達之助おじいさまは彼女が子供を産んでいれば、尚一郎をドイツに追い返せたって激怒していたらしいけど」

「酷い……」

血の通った人間なのだろうか、達之助は。
どうやったらあんな人間になるのだろう。

「でも、だったら野々村さんはお祖父さんを恨んでるんじゃ。
そもそも、野々村さん……えっと、うちの野々村さんだって、お祖父さんを恨んでるんじゃ」

「両方野々村じゃ、ややこしいわよねー。
本邸では野々村親、野々村子って呼び分けてるらしいけど、あんまりよね。
名前で呼べばいいんじゃない?
昌子と優希」
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