契約書は婚姻届
本邸の呼び方はさすがに酷いと思う。
いや、あの達之助の支配下にあるのだから当たり前といえば当たり前かもしれないが。

「じゃあ。
だいたい、お祖父さんにそんなことされて、どうして昌子さんはまだ、押部家に仕えているんですか?」

そもそもそこから謎なのだ。
達之助に暴行されてなお、押部家に仕え続けるなどと。
優希を押部家当主にするなどと、野心でもあるのだろうか。
日頃の昌子を見ていると、全くそんなことは想像できないが。

「そこはよくわかんないのよねー。
優希も達之助おじいさまは認知してないみたいだし。
それに対して昌子もなにも云わないみたいなのよね」

「どうしてなんでしょう?」

「ただいえるのは、野々村の家はそれこそ、押部が公家だった頃から仕えてきたってこと。
そういう因習とかしがらみとか?
そんなのに囚われてるのかも」

「……複雑なんですね」

祖先がそうだった、ってだけで恨みがある家に仕え続けるなんて理解できない。
それともなにか、自分には理解できないよっぽどの事情があるのだろうか。
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