契約書は婚姻届
「申し訳ありません。
彼女はまだ、日が浅いもので」

「いえ、気にしなくていいですよ。
そもそもカウンターのみの昼間に、無理に個室を開けていただいてる私が悪いんですから」

恐縮しきる女将に尚恭は何事もないように笑っている。

毎回、そうだ。

取るに足らない些細な失敗はいつも、尚恭は笑って許してしまう。

そういうところはとても好感が持てると朋香は思っていた。


すぐに、親子丼が運ばれてきた。

とろとろの玉子に、蕎麦屋秘伝の出汁がしみたしっかりと噛みごたえのあるもも肉と淡泊な胸肉がよく絡み、何杯でもいけそうな気がする。

「そういえば先ほどのお客様、朋香さんは私の義娘だと云ったら、うらやましがってましたよ」

「……ありがとうございます」
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