契約書は婚姻届
朋香の右手を取ると、その指先に尚一郎が口づけを落とした。
眼鏡越しに視線が合うと、眩しそうに目を細める。

そんな尚一郎に朋香の心臓はどきどきと早く鼓動し、これはただ、尚一郎のやることが恥ずかしいからだと自分に云い聞かせた。

 
茶の間に行くと、尚一郎が改めて明夫にあたまを下げた。

「このたびは無理を云ったのにお嬢さんを私にくださり、ありがとうございました」

「あっ、いや、あたまをお上げになってください」

年下とはいえ、取引先の会社の社長、しかも日本でも屈指のオシベグループの御曹司にこんなことをされると、さすがに明夫も居心地が悪い。

「家族になったんですから、息子として扱ってくださって結構です」

「は、はあ」

明夫は出てもいない額の汗を盛んに拭いている。
息子として扱ってくれと云われても、なにか気に障ることをやってまた契約打ち切りの危機に立たされるわけにはいかないのだ。
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