契約書は婚姻届
「うっ。
……わ、わかったよ。
このたびは朋香が大変お世話になり、ありがとうございました。
……これでいいんだろ?」

くぅん、怒られたロッテのように上目で窺う尚一郎に、ようやく朋香は溜飲を下げた。

「最初っから素直に、そうやってお礼を云えばいいんですよ」

ぱたん、ぱたん。

今度は、許しを待つロッテのように、見えない尻尾を力なく振って、上目で見つめられても困る。

「もう怒ってないかい?」

「怒ってなんかないです、よ。
……うっ」

じーっと、わずかに潤んだ瞳で尚一郎が眼鏡の奥から見つめている。
なにか云おうと思うのだが、うまく言葉にならない。

結局。

「もう許してあげますから、これで機嫌、直してください」
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