契約書は婚姻届
ちゅっ、朋香が軽く頬に口付けしたとたん、みるみる尚一郎の顔が輝いていく。
機嫌の直った尚一郎は朋香を抱きしめ直すと、スリスリと頬ずりしてきた。

「……すまないがそういうのは、ふたりの時にやってもらえないだろうか」

尚恭の声にいま、家のリビングではないことを思い出した。

おそるおそる視線を向けると、尚恭は少し赤い顔で視線を逸らし、こほんと小さく咳払いをした。
犬飼は背を向けているが、その背中がぶるぶると震えているうえに時折、くすっだの最高だの小さな声が聞こえてくる。
加賀はやはり、窓の外をじっと見ていたが、こちらも肩がぴくぴくと震えていた。

「……すみません」

穴を掘って埋まりたい。

朋香はますます、身を小さく縮こませた。

「そうそう、伝えるのを忘れていた。
おまえの贈り物に当主はえらく喜んでおられてな。
売り上げが倍になるまで帰ってくるな、いっそ、フランスに骨をうずめろということだ」
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