契約書は婚姻届
「とーっても恥ずかしい話なんだけど。
でも、話してもいいか」

尚一郎は朋香をぎゅっと抱きしめると、懐かしそうに話し出した。



その当時、尚一郎はまだオシベの、一介の社員だった。
しかもやっている仕事は下請けや仕入れ先への契約打ち切りの通告。

きっと、達之助の嫌がらせだったのだろう。

契約を打ち切られてはやっていけない、取り縋る、相手先の社長の手をやりきれない思いで振り切ったのも、一度や二度ではない。

そんな仕事ばかりしていた尚一郎の気持ちは荒んでいた。


その日も、若園製作所のような小さな町工場に契約打ち切りの通告に行き、鬼、悪魔と罵られた。

「僕だって好きでやってるわけじゃない」

自分の立場を知らず、ただ罵るだけの相手先の人間にひとり、悪態をついた。
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