契約書は婚姻届
約束の日、工場を訪れ名刺を差し出す相手はずいぶん若く見えて不安になった。

「若園……です」

「ああ。
僕、童顔なんですよ。
こう見えて三十四です」

「はぁ……」

にっこりと笑って年を云われたところで、やはり不安には変わりない。
大企業相手の訴訟をするのには、経験不足じゃないだろうか。

「ご心配なさらずに。
アメリカの弁護士資格も取得して、しばらくはあちらで活動していました。
勝てないことはあっても、一度も負けたことはありません」

「そう、ですか……」

明夫も、同席している有森も西井も不安を隠しきれないようだが、丸尾は意に介する様子はない。
もしかしたら、丸尾にとってはいつものことなのかもしれない。
それに、侑岐は少し変わった男だが、絶対に役に立つと云っていた。
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