契約書は婚姻届
「……どういう意味ですか」

この男が尚一郎を助けていれば、父親は、妹は救えたのかと思うと怒りで腹の底がふつふつと沸騰する。
目を据えて睨む犬飼に尚恭はふっと薄く笑った。

「私ではCEOに復讐するには力不足でね。
今回の件、尚一郎を見捨てればきっと、彼はCEOへの復讐に燃える結果になるだろうと予測した。
いまは意気消沈しているがすぐに、そうなるだろうね」

平気な顔で云ってのける尚恭に、怒りは一気に恐怖へと反転する。
自分の復讐のために他人を、ましてや自分の息子を利用するなど、正気の沙汰じゃない。

――いや。

そこまでしなければこの復讐はなされないのかもしれない。

「それで。
君はオシベに復讐したいと思わないかね」

聞かれるまでもない、できることならそうしたい。
けれど、尚一郎を利用しての復讐を思いつくこの男でも力不足だというのだ。
自分にはできようはずがない。
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