契約書は婚姻届
部屋に戻るとすでに、尚一郎は浴衣になっていた。
別の離れで風呂をすませてきたようだ。

「よく似合ってる」

尚一郎の、眼鏡の奥の目がまぶしそうに細くなり、頬が熱くなった気がした。

でも、これはきっと、お風呂上がりでのぼせてるからで。

冷蔵庫から出した冷たい水を飲みながら、朋香はどきどきと早い心臓の鼓動を落ち着けた。

「夕飯まで少し時間があるから、散歩しようか」

尚一郎に手を引かれて庭に出る。
振り払うとおかしそうにくつくつと笑われた。

並んで黙ってしばらく歩く。

……なにか話した方がいいんだろうか。

聞きたいことはたくさんある。
でも、聞いていいのかわからない。

「朋香は僕が、ドイツ人ハーフだってことはもう知ってるよね」
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