契約書は婚姻届
東屋に差し掛かり、尚一郎が座って手招きするので、少し離れて腰を下ろす。

「Nein、朋香。
隣においで」

少し躊躇したが、淋しそうな尚一郎に隣に座り直す。

そっと、手を握られた。

振り払おうか悩んでいると、指を絡めてくる。
尚一郎は明らかに弱っていて、ただ黙ることしかできなかった。

「着いて早々連れて行かれたのはあの屋敷で、ここで、ひとりで生活するんだって云われた。
父はいつまでたっても会いに来てくれない。
自分から会いに行こうとしたけれど、本邸には呼ばれない限り入ってはいけないって云われた」

きゅっ、尚一郎の手に僅かに力が入る。
俯いてる尚一郎からは表情が窺えない。

「裏切られたと思ったよ。
それからも会社で、上司と部下として会うときを除くと、父とは数えるほどしか会ったことがない。
さらにはあの人たちだ。
自分たちの跡を、誰とも知れない外国人の血を引く僕が継ぐのが、許せないらしい」
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