契約書は婚姻届
くっくっくっ、おかしそうに喉の奥で笑う尚一郎の声は、自嘲しているようにしか聞こえない。

「ごめんね、朋香。
こんな僕に選ばれてきっと苦労させると思うけど。
でも、僕はどうしても朋香がいいんだ。
……Verzeihen Sie bitte(ごめんね)」

泣き出しそうな尚一郎の声に胸がずきずき痛む。

……けれど。

「あの、……どうして私がいいんですか?」

契約継続の条件に、朋香との結婚を持ち出してきたときから疑問だった。

あの、祖父の態度。
朋香と結婚すれば、責められることは最初からわかっていたはず。

それに、「無理を通した」とか「切り捨て損ねた」とか。

「それはね。
……内緒だよ」

そっと尚一郎の手が肩に載ったかと思ったら、唇が重なった。
いつもはふれるだけなのに、今日ははむ、と一度だけ、軽く喰まれた。
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