【長編】戦(イクサ)林羅山篇
家康の本陣急襲
 家康は本陣近くに待機していた
旗本の部隊も次々に援護に出撃さ
せざるおえなくなり、防備が手薄
になってきた。
 勝永と幸村の部隊は離れていて
も意思が通じているかのように、
一方が抑えると一方が前進して
徐々に家康の本陣に近づき、どち
らが先に突撃してくるか集中でき
ない。
 勝永の部隊が酒井家次、相馬利
胤、松平忠良の部隊と交戦してい
ると、幸村の部隊は松平忠直の部
隊を敗走させ、先に家康の本陣に
突撃した。
 ここまで劣勢になるとは思って
いなかった家康の本陣は士気が低
く、混乱が混乱を呼んで大軍が逃
げ惑う烏合の集と化した。
 こうなると家康を護ろうとする
者もなく、家康は一兵卒のように
雑踏の一部になった。幸いだった
のは家康が甲冑を身に着けていな
かったので逃げやすく、見つかり
にくかったことだ。
 幸村の部隊に続いて勝永の部隊
も家康の本陣に突入して家康を探
した。
 この事態にようやく気づいた徳
川勢は一斉に家康の本陣に駆けつ
けたが、勝永と幸村の部隊はまだ
反撃する余裕さえ見せた。
 家康はもう逃げきれないと死を
覚悟した。
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