【長編】戦(イクサ)林羅山篇
家康の遺言
 病や薬に詳しい家康は腹部にし
こりがあるのを寸白の虫が寄生し
たと診断し、自ら薬草を調合した
万病円を服用していたが、いっこ
うに回復する兆しがない。それで
も医者の勧める煎じ薬は拒否し
た。
 困った秀忠は一度目の大坂の役
で常に家康の側に侍していた医者
で僧侶の片山宗哲に説得を頼ん
だ。しかし、家康はこれに激怒し
宗哲は処罰されてさらに回復を困
難にした。
 死を覚悟した家康は本多正純、
天海、崇伝を呼んだ。
「正気のうちに皆に申しておく。
わしが死んだら遺骸は久能山に葬
り、葬礼は増上寺で行え。位牌は
大樹寺に立て、一周忌が過ぎたら
崇伝の金地院と日光に小堂を建て
て勧請してくれ」
 三人は了解した。
 次に堀直寄と土井利勝を呼ん
で、騒乱が起きないように警備を
託した。
 秀忠と集まって来ていた家康の
子、義直、頼宣、頼房にも遺言を
残した。
 秀忠は藁をもつかむ思いで、京
から呼んだ僧侶の梵舜に御祓いを
させ、天海も祈祷を続けた。
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