【長編】戦(イクサ)林羅山篇
明への返書
 家光のもとに長崎代官、末次平
蔵政直から書簡が届き、その内容
から道春が呼ばれた。
「先生、明の欽差総督から抗議の
書簡が届いてるのです。先生は以
前、明の商人からの抗議に返答を
書き、国難を救ったと聞いており
ます。こたびもよろしくお願いい
たします」
「はっ、書簡を拝見いたします。
なるほど、これは以前と同様、わ
が国の者が明の商船を襲っておる
ということですね。わが国の法令
は以前にも増して厳格になり、監
視も厳しくしております。今、明
の国情は乱れ、明の暴徒がわが国
に来ておると聞きます。思うにそ
の暴徒がわが国の民に成りすま
し、わが国から買った武器を使っ
て明の商船を襲っておるものと思
われます。まず明の国情を良く
し、法令を厳格にした上で、わが
国と協力してこれら暴徒を取り締
まるのが筋であることを返答した
いと思いますが、いかがでしょう
か」
「さすがわ先生、それでよろしく
お願いいたします。それから私は
近いうちに日光に参ります。先生
もご同行ください」
「ははっ」
 道春はすぐに返書を起草した。
そして八月になって家光の日光、
東照社への参拝に同行した。
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