【長編】戦(イクサ)林羅山篇
家系図集
 寛永十八年(一六四一年)
 この年も江戸では大火が起こ
り、大目付の加々爪忠澄が死亡す
るなど死者が三百人以上にのぼる
惨事から始まった。
 再建された江戸城、本丸に戻っ
た家光は道春を呼んだ。
 座敷には老中の太田資宗も呼ば
れていた。
「道春、こたびこの資宗を奉行と
して大小名、旗本、近習も含めた
家系図集を作ろうと思う。それを
道春にも手伝どうてもらいたい」
「ははっ」
「道春殿、この作業はこれまでに
ない大掛かりなものとなりましょ
う。ご指導のほどよろしくお願い
申し上げます」
「はい。こちらこそお願い申し上
げます。つきましては上様、我が
愚息、春斎にも手伝わせとうござ
いますがよろしいでしょうか」
「それはよい。道春には良き後継
者がおり、うらやましいのぉ」
「はっ、恐れ入ります。ところで
なぜ家系図集を」
「これは前々から考えておったこ
とじゃ。権現様の代より大名に譜
代、外様という区別をしておった
がもはやそれは必要ない。わしは
全ての者を徳川のもとに集まった
身内だと思うておる。それを家系
図に書き記すことで形としたいの
じゃ」
「ほぅ、それは良いお考えにござ
いますな。なるほど、皆とより絆
を深めようとのお考えにございま
すか」
「そうじゃ。大変な作業になると
思うが資宗と共によろしく頼んだ
ぞ」
「ははっ」
 道春はさっそく、資宗と申し合
わせ、全ての武家にそれぞれの家
系図を提出するように求め、この
壮大な作業が始まった。
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