大剣のエーテル
つい、裏返った声が出た。
予期せぬ彼の言葉に目を見開く。
(この人…、今なんて…?)
気にせず通ってくれ、と言われても、今更石ころ同然のような扱いで素通りなんて出来ない。
恐怖心以上に、彼に対して興味が湧いてしまった。
私は、逃げようと考えていたことなどをすっかり忘れ、その場に立ち止まったまま彼をまじまじと見つめた。
「…何だ。」
彼の薄い唇が開き、低い声が私の耳に届く。
びくり、としたが、私は躊躇しながら彼に尋ねた。
「あの…、どうかされたんですか?どこかお怪我でも…?」
すると、彼は少しの沈黙の後、前髪を掻き上げながら溜め息混じりに呟く。
「怪我はしてない。ただ、旅の疲労がピークに達してな。人通りのないここで休んでいるだけだ。」
(“旅”…。やっぱり、この人は町の外から来た人なんだ。)
今日はやけに外部からの来訪者が多い。
そんなことを考えていると、男性は私を見上げて尋ねた。
「なぁ、この町に宿屋は一軒しかないのか?」
「…っ、はい。この路地を抜けた先にあるのが町で唯一の宿屋です。ここは観光する場所もないので、旅の人もあまり来ないですし。」
警戒心が抜けないままそう答えると、彼は「そうか…」と、小さく呟いて、はーっ、と大きく肩を落とした。
不思議に思ってその様子を見つめていると、私の視線に気がついた彼は眉を寄せて口を開く。
「実は、泊まる予定だった宿を訪ねたら、女将から“貸し切りになった”と言われてな。今まで野宿を続けてきて、今日はやっとベッドで眠れると思っていただけに、今の気分は最悪なんだ。」