大剣のエーテル
(…!まさか、エーテルの団長を名乗ってた大男が宿屋を貸し切りにしちゃったの…?)
この男性は、横暴な輩と同じ日に町に来てしまったせいで宿屋から溢れてしまったようだ。
状況を察した私は、彼に対する警戒が一気に解けた。
この人は、目つきは鋭いけど、怖い人じゃない。ただの“可哀想な旅人”なんだ。
「随分と大きな荷物ですね。これを抱えて旅をしてきたんですか?」
彼に対して壁がなくなった私は、好奇心のままに質問をする。
すると、男性もちょうど愚痴を言う相手を探していたように低い声で語り出した。
「この荷物の大半は、俺の“連れ”の私物なんだ。ったく、あの男ときたら、町に着いた途端 俺に荷物を預けて、ふらっと姿を消しやがった。」
“連れ”、ということは、男性は2人旅をしてきたらしい。
「ご友人と旅行ですか?」
「いや、俺とあいつは友人なんかじゃない。…まぁ、簡単に言えば仕事仲間だな。実際、俺は奴の“保護者”みたいなもんだ。」
(“保護者”…?ますます分からない。)
2人の関係性に?が浮かんだ所で、スーツの彼はよほど日頃ストレスが溜まっているのか、あぐらをかきながら言葉を続けた。
「奴は生活能力の欠如した天然野郎でな。面倒なことはいつも俺に押し付けて、本ばかり読んでいる。おまけに底なしのお人好しな上に天性のバカで…」
悪口が止まらない様子の彼だったが、私を見て、はっ!と言葉を途切れさせると、顔をしかめながら話をまとめた。
「とにかく、今日も野宿となると疲労困憊の俺は今にでも死にそうなんだ。」