大剣のエーテル
ぱっ!と、とっさに体を引く。
イヴァンさんは、ぽうっ!と琥珀色の瞳を輝かせ魔力を手のひらに込めた。
彼の手の中で粉々に砕け散った幻夢石のかけらは、さらさらと砂のように消えていく。
「こ、心を乗っ取られるって…?」
私の問いに、ランバートがまつげを伏せながら答える。
「幻夢石は強い魔力を得られる夢の石なんだ。だけど一度手を出したら、幻夢石に思考が乗っ取られて心を喰われる。まるで麻薬のようにね。石の魔力を使うにつれて、喋ることはおろか体の自由もきかなくなるんだ。…所持が禁じられているのはそのせいなんだよ。」
(そんな怖いものを一派は利用しているの…?)
ぞくりと体に震えがはしる。
ランバートの言葉に、ルタさんは、低く忠告を続けた。
「ちゃんと知識を持った上級魔法使いならともかく、あんたみたいな弱そうな魔法使いが触れたら一巻の終わりだよ。」
ルタさんは、まだ知らない。私が魔力を持っていないことを。
しかし、訂正する間もなくルタさんはランバート達に声をかける。
「俺は患者が気になるからここを離れられない。だから、あんたらに事件現場の検証を頼んでもいい?幻夢石が残されたままだったら、町民達が巻き込まれかねない。」
確かに、ルタさんの言う通りだ。
私のように幻夢石の恐ろしさを知らない人が誤って手にしてしまったら、人斬り騒ぎどころではなくなるだろう。
すると、その時。
ルタさんの言葉に頷いたランバートが、にっこりといつもの笑みを浮かべながら口を開いた。
そこから飛び出したのは、予想もしない一言。
「うん、分かった。行ってくるよ。じゃあ、ルタにはノアちゃんのことを頼むね。」
「「えっ!」」