この愛、スイーツ以上
ええっ?

突然のその要求はなに?

また「なに?」が脳内でこだまする。


「お願い。今だけでいいから。一回だけ言って」


またそんな切ない声で囁くなんて、ずるい。困るじゃない。

今知ったが、私は切ない声に弱いようだ。特に副社長の声に。

切なくお願いされて、嫌だとは言えない。

副社長と同じように私も手を彼の背中に回して、微かに力を入れた。勇気を出さないと言えないから。


「涼太……さん」

「由梨、ありがとう。好きだよ」


ここで「好き」と言うなんてずるすぎる。この場での愛の囁きの力は強すぎる。

この雰囲気と流れで「私も」なんて思ってもいないことまで言いそうになる。

危険だ。

やっぱりすぐに離れないと。


「すみません、離れてもらってもいいですか?」


少しという時間にしては長くなってしまった。気を使ったのかこの部屋から出ていった安田さんが戻ってくるかもしれない。

回していた手を緩めると、彼も同じように緩めて二人の距離が僅かに開く。距離が開くと見えなかった顔が見える。

見えると本当に恥ずかしくて、私の顔はさらに熱を帯びた。
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