この愛、スイーツ以上
「由梨、バッグは持ってないわよ?」

「え? あっ! 忘れた!」

「すみません、そそっかしい娘で」


手ぶらで出てきてしまった私は急いで、リビングに戻った。忘れないようにとソファの横に置いたのに、見事忘れた。

だから、副社長の言ったことは聞こえない。聞こえていたけど、聞こえていない。

聞いていない、聞いていない。


「いいえ、元気でかわいい娘さんだと思います」

「まあ! 元気だけが取り柄なんですけど、かわいいなんて言ってもらえるなんて嬉しいです」


聞かないようにしているのに嬉しそうに返事をする母の声もしっかりと耳に届いた。

なぜ母が喜ぶのだか。恥ずかしい……。


「すみません、お待たせしました」

「大丈夫だよ。では、娘さんをお借りします」

「どうぞ、どうぞ! こんな娘で良ければいくらでもお貸ししますので、いつでもおっしゃってください。行ってらっしゃ~い!」


大きく手を振る母とコロを抱いて小さく手を振る父に見送られて、私たちは家を出た。
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