この愛、スイーツ以上
副社長の苛立つ声に焦って、繋がっている中央辺りから切るようにお願いした。


「えっ? でも、切ったら……」

「いいんです! 会議に遅れたら大変なのでさっさと切ってください!」


躊躇う安田さんに私は早くと言葉だけでなく目でも訴える。それでも安田さんはまだ躊躇っていて、副社長を窺い見る。


「本人がいいと言うなら切って」

「分かりました」


副社長の指示でハサミを取り出し、ジョキ。切った途端、全然取れなかった髪の毛がボタンからほどけて、床に落ちた。

その場にいた三人は落ちた髪を呆然と眺める。

ちょっと切ない気分になったがほんの一部だし、まとめてしまえばカットした部分は分からなくなるだろう。


「吉川さん、今からどこか美容院へ行ってきて、直してきてください。副社長、いいですよね?」

「いえ! 今からなんてとんでもないです。仕事中ですし、帰りに行くので大丈夫です。今日はこれから結ぶので分からなくなると思います。それよりもこれ片付けますね。掃除機はこの階にありますか?」


副社長の返事を聞くよりも先に話して、早くに全てを終わらせて総務部へ戻りたいと思った。
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