俺の花嫁~セレブ社長と愛され結婚!?~
けれど、廊下を出てすぐ右側にあったその部屋に入った途端、私の心は平静を取り戻した。
というよりむしろ、背筋を寒いものが走り抜けて青ざめたとも言う。

その部屋は八畳くらいの洋室で、中央に大きなダブルベッドがいつでも使えますといった感じで整えられていた。
脇には化粧台があって、その上には化粧水や香水、メイク道具がところ狭しと置かれている。
この部屋を以前使っていた人物は、美容に気を使う人だったのだろう。嫌な予感が頭をよぎった。

「ねぇ。大河……」

そういえば、お風呂あがりにと渡されたこの部屋着も、大河のものにしてはあきらかにサイズが小さかったんだ。
さっき飲んだコーヒーのマグカップもよくよく考えればペアセットだったし。

漂い過ぎる女性の影。
そうだった。大河には彼女がいたんだった。

「私、本当に泊まっていいの? この部屋も、この部屋着も、全部彼女のでしょ?」

さすがの大河も一瞬躊躇った。ふとしばし悩むように目を逸らすと。

「いいんだ、別れたから。気にするな」

さらりと言い放ってごまかした。
先週の日曜日には付き合っていると言っていたのに、この三日足らずで別れたってこと……?
いったいなにがあったんだろう、これ以上追及はできないけれど、気になってしまう。
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