ハニートラップにご用心
「わからないことは、何でも聞いて。アタシのわかる範囲でなら答えるわ」
"新人さんはね、たくさんたくさん失敗していいのよ。そしてね、どうしたらミスをしないかよりも、どうしたらできるのかを考えて欲しいの"
入社したばかりのこと――半年前のことだ。
第一線で活躍する商社マンである土田恭也のパートナーになりたてだった頃、彼が私にかけた言葉。
作成書類の誤字脱字、社内での報告伝達ミス、毎日小さな小さなミスを重ねて、ついに大きなミスを犯してしまった時のことを思い出す。
私の仕事は土田さんが日々円滑にプロジェクトを進められるようにサポートすること。スケジュール管理もその一環だったのだけど、先方の都合で商談の日程が変更になったことを土田さんに伝え忘れたのだ。
そして私自身も商談のことなどすっかり忘れており、当日――受付の方から内線があり、椅子ごとひっくり返った。
商談資料も私が管理しているため、当然手元に何もない。私が泣きそうになって慌てて土田さんに報告に行くと、怒るかと思いきや土田さんは能天気に笑って「じゃあ、一緒に怒られにいきましょうか」と言い放ったのだった。
何が楽しいのかわからないがニコニコと笑顔で応接室に続く廊下を歩く上司の隣で、お葬式に出向くような表情で歩く部下の図。通りかかった社員には二度見された記憶がある。
取り引き先の方が待つ応接室に入って、一番に頭を下げようとして土田さんに後ろ手に制止された。行動の意図がわからず「あの……」と小さく声をかけると、土田さんは視線だけこちらに向けてウィンクを一つした。
それから、何事もないように脇に抱えていたパソコンを机に置いて挨拶と名刺交換を始めた。